「MONTURAのウェアは普段でも着ているんですよ。その理由は何より着心地がいいから。洗濯してもすぐに乾いて、家事では膝をつく動作も多いですけど、丈夫なところもありがたいですね」
どこか生活感が表れているような言葉。登山ガイドとライターを兼務しながら、年間120日ほど山に入っていた小林さんの、山一色だった暮らしを変えた出来事がある。一児の母になったのだ。「以前は本当に山に居る状態が当たり前で、特に夏や秋などのハイシーズンはひたすら山から山へ出かけて行くといった感じ。家には洗濯に帰るだけ、といった暮らしでした」
そんな毎日が急変する。育児はもちろん初めての経験で、わからないことだらけだ。コロナの顛末も見えないなか、子供が不調をきたしたとしても病院に連れて行けるかすらわからない不安もつきまとう。何よりも自由に山に行けなくなってしまった。
「自分が山に行けなくなるなんて考えてみたこともありませんでした。子供の世話をしているだけであっと言う間に1日は過ぎて行くし、行動の自粛も必要。家族で近所を散歩するぐらいが今は丁度良い感じです」
あれこれ考える暇がないくらい育児に追われていると話す小林さんだが、その姿はどこか楽しそうでもある。
「天気の良い日には、山の輝く姿をついつい羨ましい気持ちで見つめてしまったり。ああ、今あの稜線を歩いていられたら、それはどんなに幸せだろう!なんて思いながら」
そう言って笑う小林さんだが、きっと本音の部分なのだろう。今まで山登りは生活の一部だったのだから。
「せっかく八ヶ岳や南アルプスの近くに暮らしているのにと思うと、はがゆい気持ちもなくはないです。でも今はひととき、休みの時間と考えてもいいかと思ってます」
山は逃げない、とよく言われるが、焦って事を仕損じたりしないようにという意味もあるだろうか。きっと先人が誰かを深く思い慮って生まれたであろう言葉には、ときに心が救われる思いがする。
「山には正直行きたいです。けど、山は麓から眺めるだけでも素敵だと思えるようにもなりました。何よりも大切なものを授かったのだから、今は我慢です。この子と早く、山に一緒に行きたいですね」
小林さんはそう言って、息子さんを愛おしそうに抱きしめた。息子さんのフーディ、よく見ればMONTURAのロゴが輝いている。親子登山が実現するのは、意外とすぐかもしれない。