「山にいる時間がないと、精神衛生上、ダメなんですよ」
そういって照れ隠しのように笑うのは、写真家の杉村航さん。スキーをはじめ、登山、クライミング、源流釣りと季節を問わず山懐の奥深くへと潜りこみ、それぞれの世界の最前線を、その空気感を含めてを写し出す希少な写真家として、広く活躍している。
「若いときはずいぶん攻めていたので、人が行けないような過酷なとこで撮影できること、そして、体力自慢で行動が速いことを売りにしていました」
最近は身体にガタがきてますけど……そう言いながらも、笑顔の端々に余裕が浮かんでいる。そんな杉村さんによる撮影仕事でひときわ有名なものは、ビッグマウンテンスキーヤーとして、国際山岳ガイドとして広く知られる佐々木大輔さんによる、白馬岳・不帰の滑走を写し撮った上の一枚だ。
「ドロップポイントまで行って、ライダー目線で撮りたい、という気持ちがあります」
このあたりに、彼の写真が放つ力強さの秘密がある。アスリートとともに行動できる技術、体力に加えて、空気感を共有できるプレイヤーとしての視点。この目線があるからこそ、最高の一瞬を予測し、的確な場所で待つことができる。それは、自らその世界にうちこみ、獲得した経験の賜物である。
「これがスピードスケートやサッカーの撮影ならば、アスリートはカメラの向こうにいるから、一緒に走り回って撮ることができない。そうではなくて、ライダーとともにバックカントリーを歩きながら話をし、一緒の時間を過ごしながら撮影するのが好きなんです。クライミングも釣りもそうですね」
そうして、その場にいなければ出会えな一瞬を写しだす。あとはそこに自分の内面を添えて表現することができれば……饒舌な彼が口ごもるところに、含羞と本音がにじんでいる。
MONTURAの頑丈さには本当に助けられています
ライダーと行動を共にし、撮影をすること。そうした思いから、山岳スキーの世界選手権の撮影を、杉村さんはライフワークのひとつにしている。
「あれはイタリアだったかな、日本にはないタイプのトゲのブッシュがあり、これくらいならいけると突っこんだら、強烈な藪がパンツに刺さり、滑っているのを引き戻されるくらい、すごい勢いで生地が伸びたんです」
その結果、足には血が流れていたものの、パンツは破けることがなかったという。
「いつも泥臭いクライミングや沢登り、藪と格闘するようなスキーをしているので、MONTURAの頑丈さには本当に助けられています」
そんななかでも、一年中、手放さないという一着が「Genesis Hoody Jacket」だ。
「いつでも、どこでも使えるオールマイティな一着。結果的に使わないことはあっても、山に持っていかないことはない。街に下りてからも愛用しています」
子どものようにくるくる回る眼で、愛用のウェアを矢継ぎ早に取り出す。それらのほとんどが、色あせるほど使いこまれている。
「こっちのパンツは11月の北海道でね……」
現場の空気を写し出す世界観、その広大な背景を支えるウェアたち。くたびれてなお活躍する一着は、写真家の誠実な歩みを表している。